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Artist Notes

〈インタビュー〉扉を開けた向こう側に広がる世界 – ai:さんが描く不思議な魅力が詰まった景色

現在、点描の技法を取り入れた幻想的な風景絵画を、扉のついた木枠で額装する作品をシリーズとして発表しているai:さん。扉の向こう側には、初めて見るはずなのにどこかノスタルジックな不思議な風景が広がっている。違う世界への入り口のようにも思えるそのシリーズはどのようにして生み出されたのか。作品の魅力を徹底解剖!

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想像の世界への扉を開ける

それは、壁にかけられた小さな箱にも見える。その箱には扉がついており、開けてみたい衝動に駆られる。高鳴る鼓動を感じながら、小さな扉をそっと開けると、そこにはちょっぴり不思議で空気がふわりと身体を包み込むような優しい世界が広がっている。違う世界への入り口をそっと開けてみよう。

–扉を開けるとキャンバス画やガラス絵が現れる作風にはどのようにして辿り着きましたか?

2021年にマイクロキャンバスという極小キャンバスに出会ったときに、「これに扉をつけたい」と閃きました。
小さな扉を開いた先に想像の世界が広がっていたら面白いだろうなと思い、実際に作ってみたら予想以上に気に入ってしまって、今も制作を続けています。

–素材との出会いが新しい作風を生むきっかけだったんですね。

インスピレーションは突然やってくるものなので、そのときは何故そうしたアイデアを思いついたのかはわかりませんでした。
今振り返ってみると、幼い頃によくやっていたひとり遊びからきているようにも思えます。かすかな記憶ですが、子どもの頃に、ひとりになって目を閉じて想像の世界を見て回るということをよくやっていたんです。どんな世界を想像していたのかは覚えていないのですが、幼い自分にとってその行為はとても自然なことでした。
2021年に制作を再開してから描いてきた景色は、そんな幼少期に旅してきた世界の続きなのかもしれないなと感じています。そして扉は、それを現実の世界に具現化する装置のようなものなのかもしれません。

幼い頃に旅した空想の世界。見たことがないはずなのに、ノスタルジーを感じるのは、もしかしたら幼少期に心の中で想像していた世界に通じるものがあるからかもしれない。

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不思議な風景のキーとなるものは「心」と「夢」

–扉の向こうに広がっている世界は「想像の世界」とおっしゃっていましたが、モチーフや世界観についてベースにしているものはありますか?

おおまかに分けてふたつあります。
ひとつは、心象風景です。
描きたいイメージがはっきりと浮かぶこともありますし、心の中にぼんやりとある何かに形を与えるとしたらどんな感じだろう、と想像しながら描くこともあります。

−「心の中にぼんやりとある何かに形を与える」この時間は、とても素敵な時間なんだろうなと想像しました。もうひとつはどんなことですか?

もうひとつは、夢で見た景色です。
夢の中に出てきた風景を描くこともあれば、夢の続きを物語のように想像して、そこからイメージを膨らませて絵を描くこともあります。

–夢からこんなに素敵な作品のインスピレーションが得られるなんて、ai:さんの見ている夢をちょっと見てみたくなりました。絵を描く上で心がけていることはありますか?

どちらの場合でも、あまり考えすぎないようにして描くことを意識しています。
心象風景にしても夢にしても、自分の深いところから浮上してきた無意識の表れだと思うので、それをなるべくそのまま出していくことが私にとって大切なんです。
描いていくうちに、そのイメージが自分にとってどんな意味を持つのか理解していくことができます。無意識から出てきたものによって自分を再解釈し、意味づけていく作業とも言えます。それはとても楽しい時間です。

自分の意識の深くにある「何か」をそっとすくい上げて絵にしていく。絵にすることで自分の中の無意識と対話しているかのような創作時間を経て生まれた彼女の作品には「今の彼女」が詰まっているのかもしれない。作品を「作る」というよりも、作品を「生み出している」という表現が、彼女の創作活動を表す時には適切なのではないか、と感じた。

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素材との出会いが表現を変えた

−ガラス絵はai:さんを語る上で外せない要素だと思うのですが、ガラス絵との出会いやその技法の魅力などを教えてください。

友人たちに誘って頂いたガラス絵展への参加がきっかけでした。ちょうどその頃、展示をしたいという気持ちが大きくなっている時期だったので、挑戦してみようと思ったんです。

–ガラス絵展への出展が決まったことによる初挑戦だったんですか!結構大きなチャレンジでしたね。

これまで描いてきた紙やキャンバスといった支持体とは全く違うガラスという素材に、はじめは戸惑うばかりでした。
ガラス絵は描いている面の反対側が表、つまりひっくり返して鑑賞するので、描画の手順がすべて逆になります。さらに、少し描いたらどんな画面になっているかをひっくり返して一々確認しないといけません。これに慣れるのがまず大変でした。

−裏側から描いていく…。頭がこんがらがりそうです。

さらに、一般的な支持体でできることが、ガラスだとできないことが多いのです。
“ぼかし”の表現や、薄く色を重ねていく“グレージング”などは使えません。工夫をすれば可能ですが、自分が得たい効果とは少し合わない。困り果てました(笑)。
試行錯誤しているうちに、小学校の頃に先生が教えてくれた点描を思い出し、これならいけるかもしれないと始めたのが筆触分割です。点々で描くと、単純にぼかすよりも鮮やかな色彩の効果が得られます。すぐに「これだ!」と思い制作に取り掛かりました。

–考え抜いた末に点描に辿り着いたんですね。

自分なりの技法を見つけてからは、それまで難しいと思っていたガラス絵の手順が素晴らしく魅力的なものになりました。ひっくり返すまでどんな絵になっているのかが自分でもわからないというのは、びっくり箱を開けるようなものでとても楽しいのです。
そして、ガラスを通して見た絵の具のつややかな質感は、何ものにも代え難いものです。絵の具の鮮やかさがダイレクトに伝わるような独特の質感が、最も魅力的だなあと思います。
また、点描の鮮やかさが気に入ったので、後にキャンバスや紙に描くときにも応用するようになりました。
ガラスという新しい素材に触れたことで表現の幅が広がったのは、とても興味深い体験でした。当時誘ってくれた友人たちにとても感謝しています。

–自分の表現にぴったりとはまる技法との出会いは重要ですね。点描は地道な制作になると思うのですが、作成中に考えていることなどありますか?

いつも、光の粒をひとつひとつ置いていくような感覚で描いています。
光の中に秘められている無限の色の可能性が、プリズムを通して可視化されるようなイメージで、自分の中にある何かを、色の点を組み合わせて織り上げていくような感覚です。
どんな色でも、別の色とのコンビネーションで画面を創りあげていくことができるという過程が、人と人との関係性や人と世界との関係性にも思えて、そうしたところも気に入っています。

新しい素材や機会に出会い、その時のときめきや心の動きを大切に創作の幅を広げてきたai:さん。2023年9月には、和歌山の『Gallery&CafeAQUA』さんで『ROOM+』という公募展に、10月〜11月には千葉県八千代市で『ART×CAFE2023』というアートイベントに参加する予定だ。これからも、さまざまな地でアートの輪を広げていく。


Profile

名前:ai:

出身地・活動地:千葉県

SNS:TwitterInstagram

使用画材:主にアクリル絵具、キャンバス、キャンバスボード、ガラス、紙等

経歴

2001年 
3月 女子美術大学付属高等学校卒業

2014年 
2月 社会人を経て、University of the Arts London のFoundation Diploma (ロンドン芸術大学基礎コース)に1年間の留学。Fine Artを学ぶ。

2015年
10月 千葉県八千代市にギャラリーカフェをオープン

2019年
12月 ライフステージの変化に伴いギャラリーカフェを閉店

2021年
ブランクを経て作品制作を再開

2022年
2月 世界で一番小さなキャンバス展(千葉・アートカフェ カフェ・ピクニック)
12月 第24回 煌めくガラス絵展(千葉・松山庭園美術館)

2023年
2月 世界で一番小さなキャンバス展(千葉・アートカフェ カフェ・ピクニック)
7月 Float Fragile Forest 展(東京・gallery hydrangea)

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