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Artist Notes

山陰土着系女優・松島彩さんが絵を書き続ける理由 – 創作の先にある平穏

パステルで描かれた松島さんの絵の数々は、一見力強く見えるが、繊細でどこか心が温かくなるような優しさが漂っている。「今目の前にある風景」を描く彼女の絵は、「今」のはずなのにちょっぴり懐かしい。海の匂い、街の音、そこに吹く風が肌に触れる感覚が、そこにはある。

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そこにある風景を描く

この絵は、島根県の観光名所でもある「稲佐の浜」。
稲佐の浜は、八百万の神様をお迎えする玄関口であると教えられてきた松島さんは、会ったことのない祖父を想いながらこの場所を眺めていたという。

彼女のインスタグラムには、海や空など、美しい青が印象的な作品が多く掲載されている。
稲佐の浜のエピソードも踏まえて、海や空に思い入れがあるのだろうと思っていたのだが、「買ったパステルに青色がたくさん入ってたんです(笑)」と松島さん。

松島さんが描き続けているものは、常に「目の前にあったもの」であり、「特別な何か」というわけではない。
海や街の風景はもちろん、原爆ドームや政治の絵まで、日常の中でふと目に留まった風景を描いているのだ。
そこに深い意味はなく、政治的な意図もない。しかし、その絵の数々には、見る人を魅了する不思議な魅力が詰まっている。

「アート」は、何かを伝えるために創作したものでなくてもいい。
絵から各々が昔見た風景やニュースの映像、見聞きした物語やその時の匂いを想起して、その絵にその人だけの物語を見出していくことで、絵と人の関係性が構築されていく。
それも一つのアートのあり方だと感じた。

風景画が多い松島さんだが、過去に著名人の肖像画の模写も行っていた。
怪談で有名な「小泉八雲」。松島さんは、小泉八雲の紀行文が好きで、彼の紡ぐ言葉に恋をしているそうだ。
小泉八雲といえばこの横顔が印象的だが、松島さんの絵はその特徴をよく捉えている。

他にも、彼女の描く人物画はインスタグラムに公開されているのだが、それらにははっきりと顔が描かれていないものが多い。
しかし、どれも「その人」の特徴がよく捉えられており、まるでその人が背負うオーラのようなものを汲み取っているかのようだ。
曖昧であることの良さが存分に感じられ、ぼんやりとしているのに今にも動き出しそうな不思議な感覚が味わえる。

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自分の心を平和に保つための創作

松島さんは、高校卒業後、女優を目指し上京。
女優を目指したきっかけはユニセフの活動を行うオードリー・ヘプバーンの写真を目にしたところから始まる。
オードリーは晩年、ユニセフの親善大使として活動しており、貧しい地域への訪問など積極的に行っていた。
幼い頃に、訪問先の国の子供を抱っこしている映像を見た松島さんは、「あんな大人になりたい」と思い、オードリーと同じ女優を目指すようになったそうだ。

故郷の島根に帰ってきてからも女優業を続けていたが、現在は女優としての活動は休止して司法試験の勉強に励んでいる。

「自分にとって高すぎる目標を掲げ続けてきて、だんだん、自分を見失うようになりました。今の自分を否定し続け、新しい立派な自分になろうと足掻く過程で、苦しい思いをしていないと自分には価値がないのではないか、そう思って、難しい方、苦しい方をいつも選んできました。」

そんな中で、メンタルケアとして絵を描くことをはじめた。
学校にいる時、セリフを覚えている時、司法試験の勉強をしている時、これまでふと現実から逃げたくなる時は、何気なく落書きをしていたという。
何気ない目の前にある風景を、何気なくノートの片隅に描く。
自分が何が好きで、何をしている時が心地よいと感じるのか見失っていた松島さんは、「自分が絵が描くことが好きなのではないか」とある日気づいた。

「自分の描いた絵、すごくいいなって思うんです。」

彼女にとって、絵を描く時間は、現実と切り離して自分の心を平和にするための時間へと変化していった。
そして、自分が自分のことを肯定できるこの時間が、松島さんにとって特別な時間になっている。

松島さんの絵には、どこか根底に「平和」というテーマがあるように感じた。
ただそこにあるものを描いているはずなのだが、作品を見ているとなんとなく頭に「平和」というワードが浮かんでくる。とても不思議な感覚だ。

オードリーがきっかけで「平和」ということを考えることもあったそうだが、突き詰めて考えれば考えるほど「平和とは何か」という思いが強くなり、平和とは幻なのではないかと絶望したそうだ。
一方で、みんなの心が平和ならこの世の中も平和になっていくのではないか、という考えにたどり着いた。
1日3枚、1枚18分、少なくともこの絵を描いている時間だけは、彼女の心は平和。
今、彼女自身の目の前にある時間を平和にするために、彼女は目の前にあるものを無心で描く。
さらに、その絵を見た人が平和な気持ちになってくれたなら。そこから少しずつ、少しずつ、平和が広がっていく。

今日も、松島さんは自分の心の平和のために絵を描いている。
誰のためでもなく、自分のための創作。
しかし、その創作はいずれ誰かの心に届き、新たな平穏を作り出す。

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自分らしく、ありのままに

松島さんの作品には、時折自分自身をモデルにした裸婦画が登場する。
そして、その裸婦画からは「そこにある自分」を俯瞰で見て、第三者的目線で認めているような、柔らかく優しい雰囲気が漂っている。

「全裸の自分を自分の絵として落とし込むことで、自分を肯定しているんだと思います。」

着飾らない本当の自分を紙に描いて、ありのままの自分でいることを肯定する。
まさに平和な時間だ。

今後の目標は、細かく見ればたくさんあるという松島さん。
司法試験の合格や女優としての目標なども掲げた上で、やはり一番に見据えているのは「自分の心が平和であること」と話していた。
彼女自身が彼女らしくありのままで生きていく手段として、絵を描くという行為があり、多くの作品が生み出されている。

一人の心の平和が視覚化されたアートは、見る人の心を揺さぶる力を宿している。


名前:松島 彩(まつしま あや)
出身地:島根県松江市
SNS:Instagram / note
使用画材:パステル、ボール紙

経歴
2006年
中学2年生の時に、映画『着信アリfinal』で映画デビュー
2009年
高校卒業当日の夜行バスに飛び乗り、東京へ。
芸能プロダクションに所属し、バイトをしながら、オーディションを受ける日々。
2011年
心がポッキリ折れて、地元島根に帰る。
島根県松江市の松江開府400年祭のイベントとして、ローカルアイドル「まつえ舞姫隊」のメンバーとなる。
2012年〜
まつえ舞姫隊解散後、ローカルタレントとして、山陰のテレビ番組やラジオ番組、CM等に出演。
(テレビ:さんいん中央テレビ「ヤッホー!」、ラジオ:エフエム山陰「エフエム探偵局ロードトゥアルカディア」、CM:コダマサイエンス「スズメバチ編」)
その他、女優として舞台出演や映画出演の他、朗読劇のプロデュース・出演など、さまざまな舞台に立つ。
2019年
浜村温泉湯けむり映画塾プロデュースのミニドラマ「拝啓、砂の国より」主演
2020年
結婚を機に広島市に移住。1年も持たずにすぐ離婚。
2021年
体調を崩し、双極性障害の診断を受ける。新たな生き方を模索するため、司法試験に挑戦。
そのため、女優業を一旦休止する。メンタルケアのため、絵を描き始め、その絵をInstagramに投稿している。   〜現在に至る。

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