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Artist Notes

〈体現帝国主宰・渡部剛己さんインタビュー〉2023年9月上演の『奴婢訓』がすごい!

愛知を中心に活動を続ける劇団、体現帝国。夏も過ぎ、芸術の秋が到来しようとしている9月1日〜24日までの長期間で寺山修司の代表作『奴婢訓』を上演する。寺山修司没後40年記念認定事業として実施されるこの公演は、気軽に演劇が楽しめる「ドネチケ」や「ツケ払い」など、普通の演劇では聞きなれない観劇方法も用意されている。今回は演出を担当している体現帝国主宰の渡部剛己さんに話を伺った。

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これまでの歩みと奴婢訓との出会い

−まずは主宰で演出家の渡部さんのこれまでの経歴についてお聞きしたいと思います。

演劇を始めたのは、大学時代に先輩に誘われてサークルに入ったことがきっかけです。サークル自体は「みんなで楽しむ」という雰囲気だったのですが、僕は本気でがしがしやりたくなってしまって20歳の時に自分の劇団『体現帝国』を旗揚げしました。
そして、自分で演劇をやるにあたって演劇を学びたいと思った時に、「七ツ寺共同スタジオ」がちょうどスタッフを募集していました。つながりや演劇についてを学べるのでは、という思いからスタッフとして活動しました。
その時の先輩が寂光根隅的父(ジャコウネズミノパパ)という方だったのですが、「今度公演やるから」とチラシをくれたんです。
それが名古屋にある千種文化小劇場で上演された『奴婢訓』でした。

–『奴婢訓』との出会いは偶然だったんですね。

寺山修司が作った演劇実験室◉天井桟敷という劇団で活動して、後継である演劇実験室◉万有引力にも所属している髙田恵篤さんが演出されていて、名古屋の役者を使って上演していました。
その頃、演劇でどういうことがしたいのかと悩んでいた僕は、その公演を観て「これだ!」と感じました。これがきっかけで寺山修司の作品が気になるようになりました。
後付けかもしれませんが、運命的な出会いだったと思います。

–大学を卒業してからは劇団をメインに活動されていたんですか?

大学卒業後は一度、三重県文化会館に就職したのですが、やはり劇団をやりたいという想いが強くなり、1年で退職しました。ちょうど同時期に万有引力が『奴婢訓』のオーディションを東京でやっており、オーディション枠として出演することが決まりました。

–タイミングといい、これもまたかなり運命的ですね。

「ずっとこういうことをやっていたい」と改めて実感するきっかけにもなりました。そこから万有引力に入り、4〜5年活動を続けました。
万有引力を辞めた際の最後の作品も『奴婢訓』でした。
人生のターニングポイントで必ず『奴婢訓』が関わってきたように思います。
万有引力を辞めて、今後を考えていた時に愛知トリエンナーレ2019に企画が通って愛知に移住することにしました。
それから体現帝国を再開して今まで愛知を中心に活動しています。

−体現帝国で活動していく上での理念や意識していることなどはありますか?

今の日本って「頑張らなくても生きていける」国だと思うんです。いろんな国がある中で、比較的安全で生きることに困難が少ないと言いますか。娯楽にもあふれていますよね。
人間関係を頑張らなくても、なんなら一人でも生きていけるのかなと思っていて。
そんな中で芸術演劇の価値ってなにかっていうと、観たことがないもの、体感・体験したことがないものに出会えることだと思っています。
「生」である感覚って演劇特有のものだと思っていて、圧倒的な世界観や未知の世界に触れることで、その後の人生が豊かに変わっていく。それは観た人にとって価値になるのではないかなと思いますし、作り手としても代替が効かない世界が立ち上がっていくのは価値あるものだと感じます。

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現代にも通じる「主人の座の奪い合い」

–今回上演する『奴婢訓』とはどういった内容の作品なんでしょうか?

下男下女がかわりばんこに主人役を演じている邸に、この邸の遺産相続人だと名乗る男が訪ねてきます。しかし、下男下女が代わる代わる主人を演じるため、本当の主人が誰だかわかりません。
最後には全員が主人となって出てきます。男は「全員が主人になっちまった!」「こんな主人燃やしてしまえ!」と、主人たちを燃やしてしまいます。

–かなり衝撃的な話ですね…!

でもこれ劇中劇なんです。遺産相続人の男も下男で、遺産相続人の役を演じていただけなんですよね。そして、みんな燃やされたあと、みんなで打ち上げみたいなどんちゃん騒ぎで終わります。

–オチまでお話いただいてしまったのですが、大丈夫でしょうか?

確かに物語がわかると、物語を知る楽しみはなくなってしまうかもしれませんが、演劇は物語を知るだけでなく、その物語がどのように演出されて舞台に立ち上げるかを楽しむものです。物語のネタバレがダメだったら、有名な台本の上演は無くなってしまいますよね。

–なるほど。作品の大枠を聞いてどんな演出がなされているのか、とても観てみたくなりました。『奴婢訓』の作品自体が持つ魅力ってなんだと思いますか?

1978年に初演された作品ではありますが、今の自分たちの社会構造に通じるところですかね。
例えば、飲食店でバイトをしているとすると、お客さんが来たら「いらっしゃいませ」と召使い側の立場として振る舞いますが、自分がプライベートで飲食店に行く時はお客さん、つまり主人になります。なんか似てますよね。
主従関係の逆転です。みんな主人になりたいんですよね。みんな金持ちになりたいし、みんなバズりたいし、そしてそのバズる人はどんどん変わっていく。栄枯盛衰という言葉があるように、主人の座はどんどん変わっていく部分が戯曲と重なって面白いなと思います。

−なるほど、そう言われてみたらみんなで奪い合ってます。主人の座。

寺山さんが言った言葉に「主人の不在」というものがあります。「世界は、たった一人の主人の不在によって充されている」。絶対的なトップがいないから、それを奪い合うことでみんなが充されていくんですよね。絶対的なトップがいたら物語は生まれないと言いますか。
自分たちの人生にどこか似ている部分があると思うので、重ねて観ることができるんじゃないかと思います。

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『奴婢訓』に込めた想いや見どころ

–今回『奴婢訓』を上演する理由を教えてください。

寺山修司没後40年ということで、寺山作品をやってくれないかという話をいただきました。
そこで何の作品をやろうか考えた時に、最も影響を受けた『奴婢訓』がやりたいと思い、上演を決めました。
これまでに「観客」「出演」と『奴婢訓』に関わってきて、その関わり方に今回で「演出」という立場が加わるのですが、見える景色が三者三様で面白いです。
今まで自分の作品制作にずっと影響を及ぼしてきた『奴婢訓』を演出することで、この公演を終えた後の僕が作る作品は更に上のステージに行くのでないかとワクワクしています。

–確かにここまでお話を伺っていて、『奴婢訓』がとても大切な作品であることがわかります。今回の公演の魅力はどんな点だと思いますか?

万有引力にいた頃、『奴婢訓』には、シアタートラム、青森、ブラジル三都市、高円寺の4回出演しました。万有引力出身で演出を専門にやっている人って他にいないんです。
万有引力で4回演者として出演し、演出もするのは稀だと思います。
しかも、寺山作品をこの長期間上演している劇団は他にいません。長期間上演することで足を運ぶ機会が多いことも魅力だと考えています。圧倒的な世界を立ち上げていく上で、回を重ねることによって見えてくる世界もあります。

–観に行きやすいのは本当に魅力だと思います。

後は、劇中に使用している音楽は全て新規で作っているのも特色ですかね。寺山作品は天井桟敷の頃からJ・A・シーザーが音楽を担当しているのですが、今回は劇団員の赤木萌絵が全て楽曲を作っています。彼女は今21歳なんです。

–21歳!若い!

そうなんです。

−続いて演出について伺いたいと思います。

~~~~~~~~~~
築き上げた権力も家庭も会社も国家さえも、燐寸一本の火で全ては消失する。
人はいずれ死ぬ。だからこそ、この人生を謳歌する。
わたしたち奴婢は主人の座を奪い合う逆転劇を日本というお邸で強烈に演じ続ける。
~~~~~~~~~~

という演出ノートを今回の作品制作のために書きました。
奴婢訓の登場人物の下男下女たちは主人の座をお互いに狙っています。同時に誰かが主人の時は、自分は下男下女でいます。先ほどもお話した通り、この構図は今の日本社会にも通じるところがあると思っています。
そして、劇の最後では、燐寸の火で全て燃えて消えてしまいます。これも私たちの生きる世界と同じで、いつか私たちが積み上げたものは消えます。いつか消えてしまう、だったら頑張らなくてもいい、のではなく、いつか消えてしまう、だからこそ消えるまでの、死ぬまでの人生を精一杯生きようという想いを込めています。

–ズバリ、見どころや面白いシーンはどこでしょうか?

冒頭で演出である僕が出演するところですかね。出演シーンで僕は下男下女たちにボコボコにされます。過去に『奴婢訓』に出演していた人間で、さらに演出家である僕は、今回の作品において言わば権力者です。その権力者である僕を他の役者たちがボコボコにして劇が始まるのは『奴婢訓』の主従の立場の逆転が象徴的に描かれていて、面白い始まり方だと思います。これは寺山さんもシーザーもやらなかったと思いますよ。

−まさに主従関係の逆転ですね。

僕のことを知らない人は僕だってわからないんですけどね。それでも成立しますし、知っている人が観たらパンチの効いた演出で面白いと思ってもらえるんじゃないでしょうか。
あっ!あとですね、ちょっとトラブルがありまして。

−トラブルですか?

はい。先ほど音楽を担当していると紹介した赤木なのですが、役どころとしても重要な役で出演しています。そんな彼女が、通し稽古中に足の指を骨折しまして。

–あらま!

ふくらはぎから足の先までギプスになったんです。作品自体もバタバタと動き回るものなので、もう降板かな〜とか考えたんですけど、場当たりしてみたらギプスをしながら演じている状態が活きたんですよね。
不自由をカバーするための試行錯誤が行われて、骨折したからこそ生まれたシーンみたいなものが立ち上がってきました。
なんでもありの『奴婢訓』だからこそ、足が不自由になってしまったことがマイナスにはならず、プラスに転じて劇自体が豊かになっていくような感覚すら感じています。
この世界、健常者だけでできていません。いろんな人が集まってできている社会構造にも似ていますよね。劇中の社会にも多様性が生まれて、それが豊かさにつながっています。

−トラブルに頭を抱えてしまうのではなく、むしろ楽しんでいるように感じました。

そうですね、楽しめる強さと言うんでしょうか。そういう部分はあると思います。

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たくさんの人に見てもらうためのシステム

−休演日にも企画を実施する予定なんですね。

役者は休ませつつ、休演日にも何かやりたいなと思って、トーク企画やワークショップ、コンサートや劇場見学のようなものも実施予定です。
また、アップリンクから1978年1月に東京国際貿易センターで行われた『奴婢訓』初演映像をお借りし、劇場の幅7mのスクリーンで特別上映します。
その日は天井桟敷の『奴婢訓』上映会と、我々体現帝国の『奴婢訓』の初日の映像上映会を行う予定です。
天井桟敷の『奴婢訓』を大きなスクリーンで上映なんて滅多にない機会です。

−天井桟敷の『奴婢訓』上映会と体現帝国の『奴婢訓』の上映はそれぞれ予約が必要ですか?

そうですね、別々に予約が必要になります。
前日などに体現帝国の『奴婢訓』を生で観てから天井桟敷の爆音上映会に参加するもよし、天井桟敷の『奴婢訓』を観てから後日、体現帝国の『奴婢訓』を生で観るもよし、映像上映会を続けて予約してその日のうちに比較しながら楽しむもよし、いろいろな楽しみ方ができると思います。

−予約といえば、チケット制度の中に「ドネチケ」や「ツケ払い」という文字が…

変なシステムですよね(笑)

−ツケ払いは大丈夫なのかな、と心配になってしまいます…(笑)

僕は結構「性善説」を信じているのかもしれないです。でもいまだに利用者はいないんですよ、ツケ払い。面倒臭いんでしょうね(笑)
本当に観たくて、でもその時本当にお金がなくて、という状況なら別にいいんですよね。席が空いてれば観てほしいですし。お金が今入ろうが後から入ろうが、あまり大差はないんです。
本当にお金がないけど観たいと思ってくれている人に観てほしいという気持ちでやってます。

−「お金がない」「時間がない」はお断りの常套句ですね…

「時間がない」「遠いから行けない」みたいな部分もカバーするために映像配信もやります。本当は生で観てほしいですが、どうしてもって時には映像も配信しているので、そちらで観てほしいですね。

−「ドネチケ」というのはどういったシステムですか?

体現帝国初体験のお客さまに限り利用できる制度です。利用者とは別の人がドネチケを買ってくれると、それを利用してタダで公演を楽しめます。さらに今回は、タダどころか500円が手渡されます。稼げる観劇です。

−つまり、観る人に代わって誰かがあらかじめチケットを購入してくれていて、そのチケットで無料観劇ができるということですか…?

そうですね。当日会場にきて「ドネチケ使いたいです!」と言っていただいた時に、誰かがドネチケを購入してくれていた場合は、そのチケットで観劇することができます。ドネチケがなかった場合は観劇を諦めるか代金を払って観劇するかになります。SNSでドネチケが何枚あるかが告知されるので、ぜひチェックしてみてください。

−SNSに書いていなかった場合は問い合わせてもいいんでしょうか?

はい!書かれていなかったら劇団にお問い合せください。

−公演期間が3週間強あると、いつ行くのが良いのか悩みそうですが、おすすめのタイミングなどあったりしますか?

大体後半になるにつれて混んでいきます。観たかったのに観られなかったということが起きてほしくないので、早めの来場がおすすめです。

−なるほど。観劇したらSNSに感想を書きたくなってしまうこともあるかと思うのですが、期間の序盤で観劇した方でもSNSに投稿してしまって大丈夫でしょうか?

うちはネタバレOKなのでどんどん書いちゃってください!

−最後に、この公演に込めた想いや伝えたいことをお願いします。

僕はいつも「演劇の歴史の1ページを更新する」という気持ちで取り組んでいます。長い歴史の最新を作っている自負があります。
『奴婢訓』という150回以上公演されている作品をどう作り上げるのか、新しい世界をどう立ち上げていくのかを見せられたらと思っています。
観劇した人の人生に新しい刺激というか、楽しみを与えることになると思っているので、ぜひ観に来てほしいです!

暑さも和らぎ芸術に触れたくなる季節。アートに関するイベントや展示を探している人は、この機会にアート演劇を体験してみてはいかがだろう。体現帝国による『奴婢訓』の上演は、今まで味わったことのない圧倒的な世界観で、あなたのこれからの人生を豊かに変化させてくれるに違いない。


奴婢訓・特設ページはこちら

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渡部剛己

体現帝国主宰 超演出家

1987年生まれの愛知県出身

2008年より体現帝国を主宰。

2012年に一度区切りをつけ、2012年から2016年まで演劇実験室◉万有引力に所属。

2017年に体現帝国を再開させた。

万有引力を退団した2016年、若くして利賀演劇人コンクールで優秀演出家賞二席受賞するなど、演出家として功績を残している。

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